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ずるいひと(侑士)

「好きですっ!!」

 勇気を振り絞って告白したのは高校の卒業式の当日。偶然にふたりきりになれるチャンスが奇跡のように舞い降りて、ほとんど勢いだけで告白をした。

「やっと言うてくれたな。待ちくたびれたで」
「え、あ、気づいて……?」

 わたしの想い人、忍足侑士くんはわたしの情けない問いには答えず、「ほんで? まだあるやろ? 言うこと」と余裕たっぷりに続きを促す。
 はてなマークを浮かべたまま固まるわたしを見て、忍足くんははぁと長いため息をついた。

「いや、普通あるやろその続きが」
「続き……?」
「そこは『付き合うてください』ちゃうの?」

 言うてくれへんの? って囁かれながら触れられた頬が熱い。ちょっと困ったみたいに眉尻を下げた憂いのある忍足くんのきれいな顔がすぐそばにあって場違いかもしれないけどやっぱりかっこいいなぁと思った。でも、忍足くんの真意がわからなくて少し怖い。

「わたしと付き合ってください」

 芸もなく言われた通りの言葉をなぞった。いまにも泣き出しそうなわたしはさぞ憐れに見えたに違いない。なんとかこらえてどうにか言い切きると、「よお言えました。ええ子やな」と頭を撫でられた。こんなサービス告白しに来る子みんなにやってるのだろうか。ホスピタリティの塊では? 勘違いする子が増えてトラブルの素だろうに、と勝手な心配がよぎるほど。

「あ、じゃあ、あの、これで」
「いや、なんでやねん」
「わぁすごい本場のツッコミだ」
「あのなぁ…はぁ、ま、ええわ」

 盛大なため息をつかれたあと、「ほな、これからもよろしゅう」と微笑えまれる。つられて表情がゆるんだわたしだが、そのときはまだいまいち状況を把握しきれていなかった。そして、自分たちがいわゆる“恋人同士”と呼ばれる関係にになったということにわたしが気づいたのは、その三日後のこと。わたしはおおいに慌てたし、忍足くんはさすがに呆れていた。


同設定で侑士短編『ナルシッサス - 彼女の場合』