「誕生日イェイ!」
「イェイ!」
「プリッ」
「“イェイ”って何? “プリッ”って何? 祝う気あるわけ?」
「いいだろぃ! 俺らこなかったら、お前、二十歳の誕生日にぼっちだったんだぜ? むしろもっと感謝しろよ。ほら、パン」
「ちょ、こんな至近距離でクラッカー鳴らさないで」
「お、こんなとこにうまそうなツマミじゃ」
「仁王、勝手に物色しないで! 強引に部屋に押し入るわ、勝手に冷蔵は開けるわ、お前ら盗賊か!」
「まぁまぁ、今日は無礼講でいいじゃないっスか!」
「それ、年下の赤也が言うことじゃないよね。ちなみに赤也、“無礼講”って漢字で書ける?」
「ブ……? ブ……? まぁ、そんなことはいいじゃないっスか! 俺たちちゃんとプレゼントも用意してるんスよ! ね、ほら!」
「あ、そうそう。あー仁王、パソコン借りるぜ」
「ちょっと待ちんしゃい」
「え、何か見られちゃマズイもんでもあるんスかぁ? ッテ! イッテ!」
「パスワードかかってるから待ちんしゃいって意味じゃ。おりゃ」
「ちょ、それなんスか! え? ワイン開けるやつじゃないっスか! そんなんで脇腹抉んのやめてくださいよ! マジで痛い!」
「お前ら、うっせーよ! ほら、始まんぞ」
〈え? 何?〉
「あ、幸村だ」
〈え? これ、動画なの? え? の? あ、誕生日? あぁ、もうそんな頃か〉
「何これ。ビデオレター?」
「しっ! 黙って観てろぃ!」
〈あー、えっと、、誕生日おめでとう。また一歩オバさんに近づいたね〉
「……この人も祝う気ある?」
〈二十歳か。そう考えるとなんだかちょっと感慨深いな。知り合った頃は十二歳だもんね。最近はあんまり会えてないけど、元気かな? まぁ、元気か。だもんね。んーそうだな、改めてってなんか難しいね。相変わらず丸井たちとは馬鹿騒ぎしてるんだろ? 二十歳になったからってお酒は呑み過ぎちゃ駄目だよ。あ、てゆーか、もしかしてその前から呑んでる? はぁ、まぁほどほどにね。身体が健康じゃないと乗り越えられるものも乗り越えられなくなるから。健康第一。俺が言うと重みあるだろ? ん、もうそろそろいいんじゃない? どうせ俺のコメントおまけだろ?〉
「なんか終わりが……途中までちょっといい感じだったのに……」
「ほら、次!」
「え、まだあるの?」
〈!〉
「っ声デカっ! ちょっ、ボリューム下げて! うるさっ!」
「さすが真田じゃ」
「こいつのはミュートでいいだろぃ」
〈誕生日おめでとう!〉
「まだデケーよ」
「ハイハイ。ちょっと待ってくださいよ」
「あ、今、画面に唾飛んだ」
〈二十歳は大事な節目な年だ! 何事にも気を抜かず、益々お前の将来に展望が開けることを——〉
「真田のはもういいじゃろ」
「飛ばせ、飛ばせ」
「えー一応最後まで観たいんだけどなぁ、まぁ、いっか。真田だし。ねぇ、次ってもしかして……」
「幸村くん、真田、ってきたらもうわかるだろぃ!」
「うっそー! ほんとに! キャー! キャー! どうしよう!」
「ちょ、先輩、クッションで俺のこと殴るのやめて」
〈先輩? お誕生日おめでとうでヤンス!〉
「ハ?」
「幸村、真田、からのぉ〜まさかの浦山!」
「なんで! この子テニス部の後輩だっけ? 絶対私のこと知らないでしょ」
「それでもお前を祝いてぇっていう気持ち、汲んでやれよぃ」
「いやいや、画面越しでも戸惑いが全然隠せてませんよ。困ってんじゃん。かわいそう」
〈えっと……この間差し入れてくれたジュース美味しかったでヤンス!〉
「ほら、私差し入れなんかしてないし。絶対別の人と勘違いしてんじゃん」
「いやいや、一回あったじゃん。商店街の福引きで当てたとかで、大量の缶ジュース部室に持ってきたこと」
「あーあれ先輩だったんスか?」
「え、あれのこと? 何年前の話だよ」
〈また差し入れにきてほしいでヤンス!〉
「……この子、ちゃっかりしてるなぁ」
〈いきなり撮るのはやめたまえ〉
「あ、今度は柳生だ」
「眼鏡拭きだした。気合い入ってんな」
「これはブン太が撮ったんじゃないの?」
「柳生は俺じゃなくて仁王」
「へー」
〈えー、さん。お誕生日おめでとうございます。二十歳の貴女もきっとよりお美し、ちょ、仁王くんやめたまえ!〉
「なんでいちいち柳生の邪魔してんの?」
「ただビデオ回すだけじゃ面白くないじゃろ」
「相変わらず柳生先輩のこと大好きっスね、仁王先輩」
〈はぁ、気をとりなおして。今日は貴女のためにしたためてた自作の詩を朗読したいと思います〉
「え?」
「マジか! 何この展開! カオス!」
「仁王先輩ツッコまなかったんスか?」
「面白いんからツッコまんかった」
〈えーでは、『花芽吹く頃 貴女はお産まれになりました 蝉鳴く頃 貴女は爪先立ちが得意になりました 稲穂が風にそよぐ頃 貴女は指先を伸ばすことに躊躇いを覚えるようになりました 月も凍る頃 貴女は誰かを赦すことを学びました 再び花芽吹く頃 貴女は健やかにお過ごしでしょうか』以上です。ご静聴ありがとうございました。念のため解説しますと、この詩は春夏秋冬、花鳥風月を下地に少女が——仁王くん! まだ途中です! 仁王くんっ!〉
「……なんでだろう。なんか私が恥ずかしいんだけど」
「……さすがヒロシ」
「俺、言ってること半分もわかんなかったんスけど、先輩たちわかりました?」
「……プリッ」
〈おー! 、久しぶり! 誕生日おめでとう!〉
「あ! ジャッカルだ!」
〈えっと、しばらく会ってねぇけど、ブン太からはよく話聞いてる。相変わらず元気みたいだな〉
「なんで、ジャッカル自撮りなの?」
「俺は隣でラーメン食ってるから、自分で回せって渡した」
「うわぁー……」
〈せっかく二十歳になったんだから、今度一緒に呑みにでも行こうぜ。あ、あと俺んちのラーメン屋にも是非来てくれ! これからもブン太と赤也のお守り頑張ろ、〉
〈ジャッカルー替え玉シクヨロ!〉
〈まだカメラ回ってんだよ! お前の声入っちまったじゃねぇか!〉
〈あー編集とかでどうにでもなるだろぃ! それより替え玉早よ〉
「なんかすっごいまともで癒されたのに、最後のブン太のセリフでブチ壊された感」
「おいー、なんで編集で切ってねぇんだよぃ!」
「ありのままの方が面白いからのう」
「ねぇ、動画止まっちゃったよ」
「あ、終わったんだろぃ。はい、おしまい」
「え?」
「こんだけ撮んの結構大変だったんだぜ。感謝しろぃ!」
「いや、うん。ありがとう。ありがとうなんだけど、ねぇ、これで全部なの?」
「ん?」
「いや、ん? じゃなくてさ、このメンバーだったら一人足りなくない?」
「フッフッフッ」
「フッフッフッ」
「ちょ、何その黒い笑い! 絶対まだあるじゃん! ねぇ、お願い! 見せて見せて見せて見せて見せてー!」
「わーった、わーった、服引っ張んなって! ちょ、待てって!」
〈、誕生日おめでとう〉
「キャー! キャー!」
「うっせーなぁ」
「ほんっと先輩、柳さんのこと好きっスね」
「キャー! キャー!」
〈直接祝えなくてすまない〉
「全然大丈夫!」
「画面と会話してる」
「ヤバイっスね」
〈二十歳か。大人の仲間入りといったところか。しかしは、それより以前に十分に大人になっていたような気がするな。自分の進路のため単身遠方の大学に身を置いていること、尊敬している。きっとなら夢を叶えるだろう。その確率——おっとやめておこう。有意義な誕生日がおくれていること祈っている〉
「キャー!」
「スゲー……。柳さんってたまにスーパー気障なときありますよね。だって、最後の見ました? 「おっとやめておこう」って人差し指口に当ててウィンクしましたよ!」
「キャー!」
「キャーキャーうっせー! つーかさ、お前いい加減柳に告れよ」
「ヤダ! 絶対無理!」
「先輩ってかなり昔から柳さんのこと好きっスよね?」
「うん。もう足掛け七年の歴史です」
「一途っつーか、そこまでいくと怖えわ。早くなんでもいいから告っちまえよ」
「なんでもよくない! だってさ、考えてもみてよ。「好きです」って言ってさ、「ありがとう。お前の気持ちは嬉しい。しかしすまない。俺はお前をひとりの女性として想うことはできない」なーんて断られてごらんよ! 私の七年間なんだったの? って一瞬で塵になって風に吹かれて跡形もなくなるわ!」
「断りのセリフがすげぇ柳っぽいな。お前、どんだけ自分がフラれるシミュレーション入念にしてんだよ」
「さすが片思い歴七年ともなると妄想もリアリティでるんスねぇ」
「あのねぇ、私だってわかってるの! ちゃんと! 脈ないことくらい!」
「じゃあなんでまだ好きなわけ? 付き合えねぇやつのことなんかずっと想ってる意味って何?」
「……あーうるさいうるさい! 私はとりあえず今日あともう五万回これ再生するから、あんたたちもう帰っていいよ」
「おい! 俺はどんなに追い出されてもケーキ食うまでは帰んねぇぞ!」
「え! ケーキもあるの?」
「あ」
「丸井先輩のバカ! バラしちゃだめじゃないっスかー!」
「あ、酒が切れたぜよ」
「だからもっと買っとこうって言っただろぃ! 誰だ一番呑んだ奴! 買ってこい! つーか、赤也、今俺のことバカっつたな?」
「イテテテ、暴力反対! つか、一番呑んでんの丸井先輩っスよ」
「よーしっ! 買い出しじゃんけんすっか! 出さなきゃ負けだよ、」
「あ、ズリぃ!」
「ちょ、私はヤだからね!」
「出さなきゃ負けだよ、最初はグー!」
「あー!」
「あー!」
「じゃんけん、ぽん!」
◇◆◇
「絶対おかしい」
「ん?」
「何故家主兼今日の主役の私が買い出し係……」
「それはお前さんがじゃんけんで負けたからじゃのう」
「はぁ、私ってここぞってときになんかじゃんけん弱いんだよなぁ……」
「二十歳になったお祝いにええこと教えちゃろうか」
「え! なになに!」
「お前さん、慌ててじゃんけんするとき、ほぼ必ずグー出しとる」
「え! 嘘! あ、え? あ! さっきグーで負けた! でも、あれ? それ知ってたのに仁王もグー出したの?」
「プピーナ」
「ふーん……」
「っテ! って、なんで殴るんじゃ」
「べーっつに! なんとなく! あ、着いたよ! そうだ、ねぇ、ついでにアイスも買お!」
「帰ったらケーキが待っちょるのに?」
「別腹、別腹! でも買うのは二つにして家に着く前に二人で食べちゃおう」
「丸井にバレたらまたキーキー言われるぜよ」
「いーの、いーの! じゃんけんの仕返し!」
「あーアイス美味しい! 仁王も買えばよかったのに。一口あげようか?」
「んー遠慮しちょく」
「ふーん……タバコ吸ってもいいよ?」
「気いつかわんでもよか。それより、お前さんは早よそれ食べんしゃい。もたもたしとっと家に着いた頃には丸井にケーキ全部食われてるかもしれんぞ」
「えーさすがにそれはないでしょ。え、だってわたしの誕生日ケーキでしょ?」
「しかし、相手はあの丸井である」
「……早く食べます!」
「それにしても、暖かくなってきたのう。やっと冬も終わりじゃ」
「だねぇ。もうすぐ桜だ! また今年もみんなでお花見したいなぁ」
「そうじゃな」
「去年、仁王珍しく酔っ払ってたよね」
「そうだったかのう?」
「勝手に私の膝、枕にして寝てた」
「忘れたのう」
「都合の良い脳みそだこと」
「お、そうじゃ」
「あ、話逸らした」
「良いから良いから。ここに一本のタバコがあります」
「ん? やっぱり吸いたいの? どうぞ?」
「違う。ちょっと黙って見ときんしゃい。このタバコは今この新しいやつから出したのお前さんも見とったじゃろ?」
「うん。え、なに?」
「正真正銘タネも仕掛けもない、普通のタバコじゃ。それが、——ワン、ツー、スリー!」
「わ!」
「どうぞ、お姫様」
「可愛い! お花になった! え、くれるの? ありがとう!」
「っつっても、そこに生えてた雑草みたいなもんじゃがな」
「あ、ほんとだ。でもすごい! 相変わらず仁王は器用だねぇ」
「今時、女は小学生でも花なんか貰って喜ばんのじゃと。花より商品券の方がよっぽどええって、こないだ豪勢な花束抱えて帰ってきたアネキが言うとった」
「アハハ! 仁王のお姉ちゃん逞しいね! でも、それって意外と照れ隠しだったんじゃない? 少なくとも私は嬉しいかなぁ。うん! 嬉しいよ、ありがとう。……実はさ、今日三人が来てくれたのもほんとは結構嬉しかったんだよね。やっぱ誕生日、しかも二十歳のさ、誕生日に独りっていうのはなかなか……だから、うん、ほんと感謝してる。あ、でも待って、今の丸井と赤也には調子に乗りそうだから言わないで!」
「プピナッチョ」
◇◆◇
「たっだいまーって、アレ? なんで電気消えてんの?」
「HAPPY BIRTHDAY TO YOU♪」
「え!」
「HAPPY BIRTHDAY TO YOU♪」
「わ! わ!」
「HAPPY BIRTHDAY DEAR HAPPY BIRTHDAY TO YOU♪」
「ほら、早く食いたいんだから消せよ!」
「一気に! 一気にっスよ!」
「わわわ!」
「イッェーイ! 食うぞー!」
「なんかちょっと丸井の態度が納得いかないけど、いっか。食べよ食べよ!」
「切ります? どうします?」
「いいんじゃね、このまま突っつけば」
「賛成ー!」
「あ、食う前にみんなで記念写真撮りましょうよ!」
「お前、女子か!」
「いや、あとで柳さんに見せようかなって」
「え、ちょっと待って! メイク直してくる!」
「ハ? これ以上待たすんじゃねぇよ! 化粧なんてしてもしなくてもお前あんま変わんねぇだろぃ」
「ナチュラルメイクなんですぅ! ちょっと、ちょっと、だから! 待ってて!」
「やーっだね! いっただきまーす!」
「あぁ! あぁ!」
「あー……」
HAPPY ANNIVERSARY, RAINY*POOL
2016.03.29 拙宅(おそらく)復活1周年記念日!