※ブン太視点

「何やってんの?」
ジャッカルとしゃべりながら、いつものように部室のドアを開けるとすぐ前に背を向けた幸村が突っ立っていた。邪魔なことこの上ない。
何かと思い、声をかけるてから部室の奥を覗くと真田と赤也がマネージャーであるに土下座していた。
「え、マジで何やってん?」
意味のわからない光景にもう一度同じセリフを幸村に問いかけると、幸村は心底面白い物を見るような目つきになる。
「さっき、赤也がふざけてたら真田にぶつかって、その拍子に真田がを下敷きにして倒れちゃったんだ」
「ふーん、にしてもそれで土下座ってやりすぎじゃね?」
「ところが、どっこい!下敷きにしただけならまだしも、そのとき運悪く真田がにぶちゅって-」
ところが、どっこい!って言い回し古いなあとか呑気に考えていたら、幸村の発言の途中、俺のすぐ後ろでドアがガチャリと音を立てて開いた。
振り返ると無表情の仁王が立ってた。あーすげぇある意味ナイスタイミング。
アチャー


「すまない!本当にすまない、!」
「あ、うん。大丈夫だから、ね、もう頭あげて、ね」
「いや、こんなものでは俺の気がすまない!責任をとって-」
「ほう、責任をとってなんじゃ?切腹か?真田らしいのう。介錯なら任せんしゃい。俺がやってやるぜよ」
いつの間にか仁王は俺たちをすり抜け部室に入り、土下座している真田に向かって日本刀、じゃなくてラケットを構えていた。
あぁ、仁王の奴、目がマジだ。
相変わらずそれを面白そうに見てるだけの幸村。それから、よくよく見ると真田たちのさらに奥にはノートを持った柳も立っていた。
お前ら止めろよと思いながら流れ弾を喰らった面倒なので、俺もとりあえずスルーすることにした。
仁王たちを横目で気にしながらも俺は部活の準備を始める。心配げなジャッカルも躊躇しながらそんな俺に続いた。
「ちょ!何バカなこと言ってるの、仁王!真田も本当にもういいから、ね、もう立って」
が仁王を宥める。ラケットをそんな風に人に向けたらだめだよっとが仁王の手に触れれば、仁王はプリっといつもの謎の言葉をつぶやいて日本刀、違ったラケットを下ろした。
「私の方こそボサっとこんなところに立っててごめんね。それに真田も初めてだったんでしょ?相手が私なんかでこちらこそごめんね」
は優しいなあとか思っていたら、まさかの爆弾発言。
真田ってことは、つまりということだ。
「え!先輩、今のがファーストキスだったんスか!」
そしてさらに空気が読めない後輩が追加爆撃。
赤也の言葉で、自分の発言の意味に気付き顔を真っ赤にしてしまった
そのを見て、これまた顔を赤くして慌てる正直気持ち悪い真田とそれとは対照的に微動打にしない無表情の仁王。
せっかく事態が終焉に向かったかと思いきやさらなる炎上必至。
ああ、ダメだ。このままだったら本当に今日、部活出来ねえかもしんない。
「でも、ホラ、事故みたいなもんだったんだろ?じゃ、ノーカンでいいんじゃね!な!」
誰も事態を解決に導こうとしないので、ジャッカルが明るくその爆心地に割って入った。さすが俺の相棒!
動かない彼らの背を押して無理矢理バラけさせた。
もうこれ以上は何もないと幸村も柳もやっと観察をやめて、各々何事もなかったように動き出した。
は赤い顔のまま部室を出て行き、真田は赤也に説教を始め、まだ制服のままだった仁王は着替えるためにロッカーの方に来る。
俺の隣に来た仁王は無言で支度を始めた。しかしカバンをロッカーに放り投げ、ネクタイを緩めたと思ったらそこからまた動かなくなってしまった。
「どした?」
遠慮がちに仁王の様子を伺えばのそりと視線がこちらに向けられた。
「…やっぱり、ダメじゃ」
え、何が?と聞き返す前に仁王はそのままの格好で部室を出て行ってしまう。
バタンとドアが勢よく閉まると幸村が吹き出した。
「焦らして焦らして結局自分が追い詰められちゃったら世話ないよね」
あぁ、本当おっかしいとか言って幸村はなおもヒーヒー笑ってる。
真田と赤也はぽかんとした顔をしてるし、柳はまたノートに何か書き込み始め、ジャッカルはため息をついた。

そのときまた部室のドアが開く。
「すいません。委員会で少々遅れて…おや?皆さんどうなさいましたか?」
事態を全く把握していない柳生は、そんな俺たちを不思議そうに見ている。
誰か説明してやれよ、っと思ったけど面倒なのでとりあえず俺は無視を決め込んだ。



そのあと俺たちの前に戻ってきた仁王は何故か左頬が真っ赤になっていた。
これまた空気が読めない後輩バカ也が、それをご親切に指摘するとそのあとの練習で不二にイリュージョンした仁王にコテンパンにされていた。御愁傷様。
そんな仁王の様子をため息つきながら見ているおそらく今回の一番の被害者、にお疲れっと声をかけると、ブン太ぁ…と情けない声を出しながら、俺のユニフォームの裾を掴む。
しょうがねえなぁ、あとで俺のとっておきのお菓子やるよなんて慰めていると針のような視線が背中に刺さっているのを感じる。
振り返らなくてもその視線の主はわかるので、俺はあえて振り向かなかった。
あぁ、本当に面倒くせえ。

傍迷惑な奴なに会ってイラついたら、深呼吸して、その場から一度身を引いて客観的に物事を見ると心が落ち着くらしい。
そんなこと柳が前に言っていたなと思い出して、深呼吸をしようと息を吸い込んだが、それはでっかいため息に変わってしまった。

もう早くお前ら、くっつけ。バカ。