※血の表現があります

「な!ソレどないしてん!」
私が部室で掃除をしていると腕を血まみれにしている財前が現れた。
「いや、さっきちょっと切ってしもうただけっスわ」
「は、早く手当せんと…!」
持っていた掃除道具をそこらに放って、慌てて救急箱を用意して財前の元へ行く。
「傷口見せて」
手当するためにそう言うと、財前は傷口を押さえていたタオルを退けた。
途端、血が溢れ出す。生々しい傷口は予想を遥かに超えるものだった。
思わずタオルを再び押し当て、目を逸らした。
「こ、これ、あかん…。あかんやつや…」
「早う手当してもらえます?」
「無理!これ、私には手当できひん。てか、病院行きい!」
「はぁ?大袈裟な。先輩がしてくれへんのやら、自分でやります」
そう言って、財前は私の手から救急箱を取り上げてしまう。
怪我をしているのは利き手のため、救急箱を開けるのさえ難しいようだ。ガチャガチャと音を立てて中々開かない箱に財前が舌打ちした。
その間にもどくどくと彼の左腕からは血が溢れ出している。
見ているこっちが痛い。
「な、なぁ、ほんまに病院行こう?な?な?」
「あぁもう喧しいな!大丈夫言うてるでしょ!」
「お願い!やって血止まらんし、化膿とかしたらどうするん?利き腕やで?お願い、病院行こう?」
私は財前から救急箱を取り上げる。
「な?お願い」
財前は無言で懇願する私の瞳をじっと見つめる。
「じゃあ、先輩、もっと必死に頼んでください」
「あ?」
「もっと必死に言ってくれたら、俺、病院行ってもええですよ」
「え…?」


◇◆◇


「おーい、財前!怪我大丈夫かあ…って、うわ!」
白石が部室の扉を開けて、私たちを見つけて驚く。

「何してん!なんでが泣きながら財前に土下座してるん?てか手当は?」
「し゛ら゛い゛し゛〜」
救世主白石に私は泣きついた。
えぐえぐ泣いている私の頭を白石がよしよしと優しく撫でる。
「財前、なんでお前まだ手当してへんねん!しかもマネージャー泣かして!」
怒鳴る白石なんかお構いなしといった感じに、財前は明後日の方向を向いている。
「財前!」
そんな態度の後輩に白石も本気で怒り出した。すると財前はやっと観念したのか、はぁっと深いため息をつき、立ち上がった。
「ほな、病院いってきまーす」
私と白石の隣をすり抜け、財前が部室から出て行く。
扉を閉める瞬間、財前は私に向かって舌を出しあっかんべえをした。

「ったく、アイツは…てか、ほんまどないしたん?」
財前が出て行った扉を見ながら白石がため息をつく。
「私にもよくわからんねん。なんや私がもっと必死に頼まんと病院行かへん言い出して…」
「…アイツ、ほんましょうもないなぁ」
「?」
「好きな子に心配してもらいたかっただけってことやろ?」
白石が苦笑しながら私を見た。
私は白石の言葉でやっとさっきまでの財前の不可解な行動に合点がいく。

「わ、私、財前心配やから、やっぱり病院一緒に行ってくる!」
おぉおぉ、そうしたりっと白石に見送られ私は財前の後を全速力で追いかけた。