四天宝寺テニス部は全国大会準決勝で負けた。
今年は優勝するんじゃないかと期待されてた分、応援スタンドも落胆が激しい。
みんな、口々に勝手なことを言ってる。泣き出している子もいる。
スタンドを見下ろし、蔵ノ介を見る。彼は笑っていた。



二日後、蔵ノ介は私の家に来た。昼過ぎくらいに急にチャイムが鳴るから宅配便かと思ったら、蔵ノ介だった。
「急にごめんな」
「いいよ。入って」
「家族は?」
「夏休みはほとんどお母さんもお父さんも仕事でいいひんよ」
聞いたのは蔵ノ介なのに、ふーんっとそっけない返事をした。二人で二階の私の部屋に上がる。
「すごい荷物やな」
「今さっき、あっちから帰ってきてん」
ラケットバックの他にもおっきなドラムバックが一つ。蔵ノ介がそれを床に下ろすとドスンと低い音がなった。
些細な動作がいつもの彼より荒くて、疲れてるんだなっと思った。
「なんか冷たい飲み物でも持って−
腕を強引に引っ張られて、私はそのままバランスを崩す。こうなることは薄々わかっていたので慌てはしなかった。
「ええよ、そんなん。いらんから、ここにおって」
力いっぱい抱きしめられて、甘い汗の匂いがする。
私の首元に埋められた彼の頭は熱い。肩にはほんのり湿り気を感じる。
頑張ったね、残念だったね、お疲れ様、どんな言葉が彼を一番癒せるだろう。一昨日からずっと考えてた。
部活の大変さは帰宅部の私にはわからない。何もわからないのに、この場だけの慰めは彼を気づかぬうちに侮辱してしまいそうで怖くて言えない。
蔵ノ介はみんなの前じゃいつも平気そうな顔をする。あの時もしゃーないなって、にっこりしながら金ちゃんの頭を撫でていた。
でも、私は彼が直隠しにするその脆く綻びかけている部分を知ってる。
正直彼らが勝とうが負けようが、私にはどうでもいい。ただ、彼が、彼だけが、喜んだり、楽しかったり、嬉しかったりすればいい。
泣かないでほしい。幸せであってほしい。責任感が強くて、他人にばかり優しい彼は、誰よりもそうなる資格があるはずだ。


「蔵ノ介、だいすき」
彼の柔らかな髪を撫でる。
結局、私は私しか言えない言葉を選んだ。どうか、どうか、このひとときだけでも、心安らげるようにと想いを込めて。

私の背中の服のしわがより深くなるのを感じる。私たちは重力に従い、床に膝をつく。彼の嗚咽が部屋に響く。



「俺、自分にカッコ悪いとこばっか見せてるな」
蔵ノ介はスンっと鼻を鳴らした。だいぶ涙は引いたみたいだ。
ゆっくりと身体が離れる。
「せやけど、嫌いにならんとってな」
俯いている彼の表情は読めないが、そのまだ震える声色が私を十分に切なくさせる。
ならんよ。という返事の代わりに彼をそっとまた抱きしめた。