「何読んでるの?」
「月刊プロテニス」
「何そのマニアックな雑誌」
「今月号は手塚が載ってるんだ」
えっと反応してしまった。その様子を不二は見逃さず面白そうにみている。
「見る?」
「うん」
あたかもさほど興味があまませんという程でパラパラとそれをめくると雑誌の後半で中学生にインタビューしているページを見つけた。
大きくはないが、そこには手塚の写真がカラーで何枚か載っていて、インタビュー記事まであった。
「…これ普通の本屋さんでも売ってるの?」
「売ってるよ。大体メンズ雑誌の隣とかにスポーツ雑誌コーナーがあったりするから女の子にはあんまり馴染みないかもしれないけど」
「…ふーん」
「もういいの?」
「うん…」


その日の帰りに書店に寄ったのは言うまでもない。周りをチラチラ警戒しながらお目当の雑誌を探す様は完全にいかがわしい本を買いに来る中学生男子だ。
不二が言っていたとおり、それは男性ファッション誌コーナーのとなりにあった。
最後の一冊だった。ほっと手に取り、早々に会計を済ませようとしたところで今絶対に会いたく人物たちと鉢合わせしてしまった。

「あ!!」
そこには自分と同じく学生服の不二と手塚がいた。私は固まって動けない。
、やっぱりその雑誌読みたかったんだ。だったらもう少し貸してあげたのに」
「それが最後の一冊のようだな」
どうやら彼らの目当もこの雑誌のようだ。手塚がスポーツ誌コーナーの棚の中を目で探している。
「え、あ、うん。でも、か、買わないよ。はい」
そう言ってその最後の一冊を手塚に突き出した。
「買わないの?」
不二は心底不思議だと言わんばかりに小首を傾げる。
あまり嘘が得意とは思わないので目が合わせられないが、不二が完全に面白がっているのがわかる。
「うん!買わないよ!今日たまたま本屋に寄ったら、たまたま今朝見せてもらった雑誌がたまたまあったから思わず手に取っちゃっただけだから!」
「そうか。ならありがたく。母に頼まれててな。助かった」
「もうその雑誌あんまり取り扱ってないから探すの大変だったんだよねー」
「え?」
「もうすぐ次の号でるし、そもそも数はあまり置いてないんだ、どこも。」
「へぇー…」
「この辺の他のとこも行ってなくって、ここが最後だったから、あってよかったよ」
「へぇー…じゃあ私はここで…」
といって彼らが見えなくなるまで後退りながらダッシュで書店を後にした。



「昨日は残念だったね。」
「何が?」
「それにしてもが手塚のこと好きだったとはなー」
「な、ちょっと!違!」
「違うの?そっかー残念。が手塚を好きだって認めたらあの雑誌譲ってあげてもいいと思ってたのに」
にーっこりと微笑む彼。そもそも彼はすでに答えがわかっているのだ。意地悪以外のなにものでもない。
ならもう変に見栄を張らずに利益を得る方が得策ではないか。
「…譲ってください…」
「よく聞こえなかったな?もう一回言って」
「譲ってください!」
「そっかーそんなに手塚のことがねーふーん、そっかー」
「声がおっきい!バカ!」
「しょうがないなーじゃあ今回は特別だよ。明日持ってきてあげるから待ってて」
「…ハーイ」


次の日廊下で手塚に会う。顔を合わすのはこの間の本屋以来なので少し気まずい。

「手塚?」
「丁度今お前のクラスに行くところだったんだ。すまなかったな」
「?」
そう言って手塚は紺色のビニール袋を私に手渡した。
「不二から聞いた。やはりもこの雑誌が欲しかったそうだな」
「!」
中身を確認するとやはりそれは例の雑誌だった。
不二ぃ!手塚に何を言ったんだ!どこまで言ったんだ!馬鹿野郎!糸目野郎!と心の中で悪態をつき、とりあえず袋は手塚に返した。
「いや、いい、いいよ、大丈夫、ふ、不二から貰うから!大丈夫!」
「しかし、お前から横取りをしたのは俺だ。俺のを渡すのが筋だろう」
返した袋がまた私に押してけられる。
「い、いいの!いい!不二に貰うから!」
ぐぐぐっと押し付けられた袋を押し返す。
「……不二のことが好きなのか?」
「はい?」
何を言い出すのだろうか、この人は。袋を押し返していた腕が止まるり、落ちそうになったそれを手塚が掴んだ。
まぁ確かに何も知らなければ、今の私の言動によりこのような考えに至るのは理解できなくもない。
「不二のことが好きなのか?と聞いているんだ」
「違!私が好きなのは………」
「………」
畳み掛けるように容赦なく追求する手塚に圧倒される。
なんだこれ?公開処刑?ここ廊下なんですけど。チラチラ見られてるんですけど。
なんでよりにもよって手塚にこともあろうが不二を好きかなんて問い詰められなくてはいけないんだろうか…
逃げだしたい、今すぐに逃げだしたい。しかし手塚の誤解は解きたい。
「テ、テニス!そう!私最近テニスが大好きなの!これ、ありがとう!じゃ!」
半ばヤケくそになってそう叫び、結局私は紺色の袋を手にしてその場から逃げ出した。



後日、手塚から雑誌をひったくって走り去る様を連写した写真を不二にもらった。
絞め殺してやる!!!