私は小さい頃から『みどり』色の食べ物がキライだった。
ピーマンにほうれん草にそれからセロリ。
それは今でもかわらない。子供っぽいって言ったらそれまでだけど。

だから抹茶味のお菓子もキライで。
いやキライというのは正しくない。生まれてこのかた食べたことがない。
食わず嫌い。
私の頭の中には『みどり』色の食べ物=まずいという方程式が出来上がってしまっているんだ。

まぁ別に抹茶味のお菓子を食べなくても死ぬわけではないし避けることができたので避けてきた。
(ピーマンやほうれん草もそうだけどお母さんが怒る。)


クラスメイトの切原くんも私にとってはそんな存在だった。





避けると言っても別に大した話じゃない。
そもそもクラスの男の子と話すなんて滅多にない。
話したとしてもそれこそ班が一緒だからとか日直同士だからとか必要に迫られたときのみだ。
でもその中でも切原くんは特別で、なんで?って言われても口で説明するのは難しいけどとにかく苦手だった。(たぶん怖そうだから?)



ー日誌書けた?」
ゴミ捨ての仕事を終えて帰ってきた切原くん。
今日の日直は彼と私だ。
もう放課後なので教室には日直の私たちしかいない。

「あ、ごめんなさい。あとちょっと。」
少し緊張する。私は今、苦手な切原くんとたぶん初めて話している。

「あぁ、いいよ別に。むしろ急がないでくれるとありがたいんだよねー。」

「どうして?」

「部活。ちょっとサボれんじゃん。」
そう言って笑った顔はなんだかとても可愛くて意外だった。
そもそもあんまり話ことがないのに勝手に苦手がっているのは本当に失礼な話である。



「あ、ーコレあげる。」
「わっ」
ひょっと彼が何か私に投げた。

「さっき丸先輩からパクってきた。」

切原くんがくれたのは抹茶味の飴だった。




「ん?食わねぇの?」
私は飴をじっと見つめていると不思議そうに言われた。
彼の口の中にはもうすでに飴があるようだ。

「もしかして抹茶苦手とか?」

「食べたことないの……。」

「え?マジで?今まで一回も?」
せっかくくれたのになんだか申し訳なくて遠慮がちに小さくうなずいた。
切原くんはマジかよーとかなり驚いているみたいだった。
私は私で彼とこんなに話てることにまだ驚いている。





「おい!赤也!!部活始まってんぞ!!!」

そこに急に教室にテニス部の先輩(たぶん丸先輩?って人)が入ってきて、私にとってはなんとも言いがたい二人の時間は終わった。




、後頼むな!!」
悪りっ!て手を顔の前でポーズを作って彼は先輩に引きずられるように教室を出ようとしていた。





「あ、ソレ一回食ってみろよ。案外うまいよ。じゃっ!また明日!!」




彼が出て行き私は独りで日誌の続きを書き始めた。
それからそっと抹茶味の飴を口に入れた。
はじめは予想してたとおり少し苦かったが、あとから柔らかい甘みがじんわり口に広がった。
なんだか私はやっぱり切原くんを思いだしていた。