油断してた。
あいつはたいてい家にはバイクで来る。
だから玄関を見れば一発。
今日はバイクがないから来てないみたい。
一人暮らしだからインターホンなんて鳴らさない。
鍵をさして、回して、ドアを開け……
「おかえんなさぁーい!」
「『おかえり』じゃないわよっ!!」
満面の笑みで出迎えたのは白いフリルのエプロンをした切原赤也、17歳とカレーの匂いだった。
「あんたねぇー何度言えばわかるの?あたしがいないときに勝手に入るなって言ってるでしょ?てか、何その格好?」
「そんな細かいこと気にしない、気にしない。それより、はい、はい、お腹空いてるでしょ?」
と言って赤也は問答無用にあたしの肩を押してリビングに向かった。(とりあえず手を洗わせてよ。)
「お腹?あんたそんな意味分かんないことばっかやるなら鍵とりあげるわよ。」
(合い鍵は幸村が勝手に作って赤也の誕生日にあげた。犯罪だっ!!)
リビングのテーブルにはカレー(サラダ付き)が用意されていた。
「じゃーん!!」
「『じゃーん!!』ってあんた……何コレ?」
「何ってカレーっスけど?」
「…ふーん………。あんたが作ったの?」
「そうっスよっ!俺が全部一人で作ったんスよー!!仁王先輩と幸村先輩に聞いて。」
「…ふーん………。って雅治と幸村っ???あんたちゃんと毒味したの?」
「毒味って…大丈夫っスよー!!しかも先輩が作るみたいにちゃんと粉混ぜたやつっスよー!!!(ルー使ってないやつ)」
「マジっ?…ふー…………ん?」
あ、なんかヤな予感するんだけど。
「あ、ちょっとキッチンは行っちゃ………
ほら、やっぱり。
ダメって………。」
笑って誤魔化さないでよ。なんなのよ、この汚れ放題のキッチンは。
なんでキャベツの芯が落ちてんのよ。
なんで小麦粉がこぼれたまんまなのよ。
なんでフライパンが真っ黒なのよ。
てゆーか………
「あんたいったい何日分のカレー作ったのよ?」
コンロの場所を占領するどでかい鍋。
うちにある一番でかい鍋。
一人暮らしじゃめったに使わない鍋。
「あーえ?そのこと?やっぱ多かったっスか?大丈夫っスよ、俺、成長期だし。」
溜息しか出てこない。
もう、しょうがないんだから。
「ほら、早く食べて、食べて。マジ自信作なんだから。」
「……いただきます。」
「どう?」
どう?って……そんなすぐ言われても。てか、あんたは彼氏に初めて料理を作った彼女か?
「ん、あ、おいしいかも。」
「マジ?よかったー。ほんじゃ、俺もいただきまーす。実はめっちゃ腹減ってんスよねー。」
「ねぇ?」
「ん?」
「なんで急にカレーなの?」
「え?やっぱマズかったっスか?」
「そうじゃなくて、なんで急に料理なんかしたの?」
「んーいやさ、先輩いつも簡単そーにパパーっとなんでも作っちゃうじゃん?俺もできっかなぁ?って。」
簡単そーに見えますか…ふざけんな。
机の下で赤也の足をけっ飛ばした。
「いってー。何するんスかー、もう。」
「で?始めて料理の感想は?」
「やっぱ、先輩みたいにはいかないっスね。」
当たり前だ、ばーか。
「先輩が作ったのが1番うまい。」
「…ふーん………。」
そんな屈託のない笑顔しないでよ。
どうしてそんなに簡単に人のこと褒めるのよ。
「あ、先輩顔赤いっスよ。」
ガンッ
「いってー。」